サブスクリプション会計の損益計算書【その3】

2020.08.03 カテゴリー:

要旨

 サブスクリプション会計の損益計算書は月次損益にも適応できます。月次損益計算書は3つのパートで構成されます。年間収益パートではARRによって今時点から1年間の収益力を毎月把握することが可能です。月間収益力パートによって月間での収益力が把握でき、その年度の売上高の見通しが立ちます。損益パートは財務会計の営業利益と一致させます。
 また販管費をS&M除く販管費とS&Mに分けて把握します。これにより、今年度は残りいくらまでであればS&Mを投下できるかを月次で把握することが可能になり、S&M投下量をコントロールすることで年度の営業利益をコントロールできます。

1.はじめに

 前回前々回と損益計算書について年度単位で説明してきました(注1)。実務においては月次単位での損益計算書も必要になりますので今回は月次単位の損益計算書について説明します。

2.月次損益計算書

2.1 月次損益計算書の構成

 再び図1をみてください(注2)。この図は利用料が月額定額100万円で2年ごとに契約更新するタイプのサブスクを提供している企業が毎月1件ずつ顧客を増やしており、2年ちょうどで必ず解約されると想定した場合の収益の変動を表しています。

図1 サブスクリプションビジネスの収益の概念図

 図1の収益情報をもとに月次損益計算書を作成するにあたり、売上原価は収益の20%、S&M除く販管費は収益の20%が定常的に発生するものとし、S&M(注3)は初年度に33百万円が発生したものとします。またS&Mは毎月均等に按分するものとします。以上の仮定のもとに作成した月次損益計算書が図2です。
 月次損益計算書は年間の収益力を示すパート、月間の収益力を示すパートと、年度の損益計算書に影響するパートの3つのパートで構成されます。

図2 12か月分の月次損益計算書と年次損益計算書

2.2 年間収益力パート

 年間収益力パートはその時点での”年間”の収益力を示します。年度ではなく年間です。その時点からの12か月間でどれだけの収益を計上する実力があるかを示していると考えます。
 月初ARRは月初のMRRの12倍です。月末ARRは月末のMRRの12倍です。年度最終月の月末ARRは次年度の財務会計の年間売上高になります。また、期中のいつの月の時点であっても、月末ARRは、その時点から新規獲得等による収益増や解除等による収益減が発生しないとした場合の次年度の財務会計の年間売上高となります。つまり、年間収益力パートによって、今の実力であれば次年度はいくらの売上高を獲得できるかを月次単位で把握することができます。

2.3 月間収益力パート

 月間収益力パートはその時点での月間での収益力を示します。月初MRRに当月の新規獲得等による収益増と解約等による収益減を加えることで月末MRRとなります。月末MRRは財務会計の売上高となります。年度開始月から12か月分の月末MRRを合計するとその年度の売上高となります。また、年度途中であっても、その時点の月末MRRが年度末まで継続すると想定をおけば、その年度の売上高が簡易に予測し得ます。

2.4 損益パート

 損益パートはその月の損益を示します。損益パートの月末MRRと営業利益が財務会計の売上高と営業利益に一致します。また、それぞれの年度開始月からの12か月分の合計は財務会計の年度の損益と一致します。
 サブスク会計では月次損益計算書においても販管費をS&M除く販管費とS&Mに分けてEBITSMと営業利益を捕捉します。これによりEBITSM(注4)の変動と今年度に投下済みのS&Mの額を月次で把握できますので、今年度は残りいくらのS&Mを使うと営業利益がどの程度残るのかを毎月把握しながら経営判断を下すことが可能になります。
 損益パートは年度開始月から当月までの累計で把握することも可能です。その場合は図3のようになります。


図3 年度損益パートの累計表示


3.財務会計とのつながり

3.1 収益のつながり

 サブスク会計は財務会計ではありません。しかし、財務会計が社会にとって重要な機能を果たしていることも事実であり、企業に財務会計による報告が要請されているからには、サブスク会計も財務会計を意識したものであるべきです。それが故にサブスク会計は月次の損益であっても、収益を”年間”単位と”年度”単位の両方で捕捉できるようにしています。
 MRRの合計または累計によって捕捉した収益はその年度の財務会計の売上高として実現した収益です。他方、年間で捕捉するARRは「その時点からの12か月間でどれだけの収益を計上する実力があるか」を示しており、これはまだ実現していない将来の収益です。まだ実現していない収益なのに捕捉したい理由は主に2つあり、どちらも前回までに説明してきました。
 1つは財務会計でサブスクビジネスを捕捉すると将来の収益獲得のための投資的な意味合いを持つ費用(注5)が先行して計上されてしまうため、既に実現した収益との対応がとれないので、売上高だけではなく、ARRもみることによって収益と費用の対応を補正すること。もう1つは予測される収益に相応しいS&Mの投下量にコントロールすることで営業利益をコントロールし健全性と成長性をバランスさせるためです。

3.2 営業利益のつながり

 サブスク会計の営業利益も財務会計の営業利益との一致を意識しています。財務会計の営業利益は現金主義会計の利益のように現金の増加を直接的に意味しませんが、売掛金の回収などをとおして最終的には現金を増加させ、営業損失であれば現金が減少します。営業損失が出ないように費用をコントロールできていれば、企業の財務体質を痛めることなく健全で持続的な経営が可能になります。
 もし、費用のコントロールができずに営業損失が常態化していれば常に現金残高を気にしながら、綱渡りな経営をしなければならなくなります。このような状態を避けるためにもサブスク会計の営業利益は財務会計の営業利益との一致を意識しています。

4.おわりに

  サブスク会計の損益計算書は月次損益においても予測可能性の高さを有し、S&Mと営業利益のトレードオフのコントロールに資することを理解して頂けたのではないでしょうか。


(注1) 藤原(2020b)、藤原(2020c)を参照下さい。
(注2) 藤原(2020a)を再掲。
(注3) Sales & Marketing expenses の略、営業及びマーケティング費用を示します。広告宣伝費や営業部門の人件費等が該当します。
(注4) EBITSM=営業利益+S&M
(注5) つまりS&Mです。

参考文献
・藤原大豊, 2020a.4.16,「サブスクリプションビジネスがいつまでも儲からないように見えるわけ【その2】」
https://www.subscription-research.com/service/Subscriptionblog01-002

・藤原大豊, 2020b.7.1,「サブスクリプション会計の損益計算書【その1】」
https://www.subscription-research.com/service/Subscriptionblog01-04

・藤原大豊, 2020b.7.16,「サブスクリプション会計の損益計算書【その2】」
https://www.subscription-research.com/service/Subscriptionblog01-05

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