定期収益と固定費からみる「変動幅」と「時間差」

2020.11.02 カテゴリー:

要旨

  サブスク会計は収益の質に拘る会計でもあります。定期収益は非定期収益に比べ安定的且つ継続的に獲得できる収益であるため予測可能性が高いだけでなく、外部環境の悪化による急激な需要減の影響を受けるまでに時間差があり、収益の変動幅が小さいことから、固定費を安定的にカバーし、突然に赤字に陥るということを回避しやすいという特徴があります。

1.はじめに

   サブスク会計は将来収益の予測可能性が高いが故にコストコントロールが比較的容易であり、結果、利益コントロールもしやすい(注1)。これは何度も言及してきました。また実現可能性に応じて収益を分類することで予測精度を高めることについても言及しました(注2)。このようにサブスク会計は収益の質に拘る会計であると言っても良いかもしれません。今回は収益の質について固定費との関係から掘り下げます。

2.固定費と収益

  費用を分類する時、様々な分類がありますが、固定費と変動費に分ける考え方があります。固定費と変動費の定義を詳細に説明することが目的ではないので、ここでは簡単に、変動費は収益の発生に応じて発生する費用で、固定費は収益の発生とは無関係に期間に応じて発生する費用としましょう(注3)。
 ある事業者がモノが何も売れず収益が1円も無い期間があったとします。そんな期間であっても固定費は収益の発生と関係なく生じますから、その間は固定費の分だけ赤字になります。
 ですから、固定費をカバーできるだけの収益(注4)を安定的且つ継続的に獲得することは持続的な経営を行うために大事なことです。ですが、固定費は確実に毎月発生するのに対して、収益は安定的に発生しません。原因は自社の供給力の低下など内部環境に起因する時もあれば、競合の参入や代替品の登場による需要変動などの外部環境に起因する時もあります。
 仮に自社が高い統制力で常に万全の供給能力を維持したとしても、外部環境の変化まではコントロールできません。緩やかな需要変動であれば、変化に応じて固定費を増減することができるかもしれませんが、自然災害などで突然に需要が激減した時は収益が突然減少し固定費がカバーできなくなります。そうなると資金繰りが悪化し途端に経営危機に陥ることもあります。

3.固定費をカバーするために

  固定費は固定的に発生するのに対して収益は常に変動しているため、このような問題が生じるわけです。この問題に対処しようとするときすぐに出てくるのが次の2つです(注5)。

①固定費を大幅に上回る収益を獲得する
収益減が起きても固定費をカバーできるだけの収益を普段から獲得しておこうということです。

②固定費をできる限り小さくする
収益減が起きても固定費が小さければカバーできるということです。
この2つの方法はまとめれば「小さな固定費でたくさん売れ」とか「収益に対する固定比率を下げろ」ということになります。
しかし、小さくても固定費は発生しますし、たくさん売るためには固定費の増加が避けられない場面もあり、収益変動の大きさによっては固定費をカバーできないこともあります。

サブスクビジネスの場合、ここにもう一つの手段を提案することができます。それが

③収益変動の幅を小さくする
というものです。

4.定期収益と固定費

  サブスクビジネスは定期収益が発生します。定期収益は「顧客との継続的な関係が担保」されていることによって発生する収益ですから突然減ることはありません。売り切りビジネスの収益に比べれば変動幅が小さな収益です。収益全体に占める定期収益の割合が高くなればなるほど、収益全体の変動も小さくなります。そして固定費をカバーするに十分な定期収益を獲得していれば外部環境が突然悪くなっても収益が急減しませんので突然に赤字になることはないわけです。このようにして経営が安定するということもサブスクビジネスのメリットとして挙げてよいでしょう。

5.定期収益の質

  ただし、定期収益と言えども外部環境が悪化した時に減らないわけではありません。外部環境の悪化による需要減が収益減につながるまでの時間差があるといった方が正確です。
 外部環境の悪化によって収益が急減するのは使ったときに使った分だけ請求する課金形態によるものです。顧客は使わないだけで請求が止まるので何のアクションも起こさなくても、サービスを使用しなければ支払いを止められるからです。
 一方で、収益が急減しないのは利用期間を契約で縛っている定額課金のものです。サービスを使ったか使わなかったに関係なく契約満了までは定額を請求できるからです。
 次に収益が減りにくいのが、いつでも解約できるけど一定期間ごとに自動更新する定額課金のものです。顧客はわざわざ解約するというアクションを起こさなければならないのでサービスの使用を止めるだけで請求が止まるタイプのものに比べれば、事業者側に収益減として影響が現れるまでに時間差が生じます。
 以上のように環境変化によって顧客がサービス利用を継続できなくたったとしても、支払いが止まるまでの時間には課金形態によって差があります。事業者側の都合だけを考えれば定額課金且つ長期契約で顧客を拘束すれば有利ということになりますが、事業者有利の課金形態を一方的に提示しても顧客との関係性を築くことが難しくなりますので課金形態の設計には十分な検討が必要です(注6)

6.まとめ

  以上に述べたことをまとめると、売り切りビジネスで収益の100%が非定期収益のとき、固定費比率が高く収益変動の幅が大きいと、安定的に利益を生むことが難しい。定期収益を獲得することで固定費をカバーできるようになると赤字になりにくく経営が安定する。定期収益も外部環境の悪化によって変動するが収益減として現れるまでに時間差がある。時間差は課金形態によって異なる。といったところになります。「変動幅」や「時間差」といった切り口で収益の質を捉えようとするのもサブスク会計の面白さと言えます。


(注1) 藤原(2020a)を参照下さい。
(注2) 藤原(2020b)を参照下さい。
(注3) モノやサービスを提供した時に生じる売上原価は変動費で、提供の有無に関係なく発生する従業員の給与は固定費。ここではこのぐらいざっくり捉えて頂ければと思います。
(注4) 正確には限界利益・貢献利益が固定費を上回ったときに赤字が解消されますが、収益の増加によってこれら利益は増加しますから説明の便宜上、ここでは収益と言っています。
(注5) もう一つの方法として変動費を下げる。つまり限界利益・貢献利益を高めることで収益が減少しても固定費をカバーする力を高めることもできますが、ここでは収益と固定費について説明してるので割愛します。
(注6) 顧客との継続的な関係を担保するものは契約ではなくカスタマーサクセスであってほしいものです。

参考文献
・藤原大豊, 2020a.7.16, 「サブスクリプション会計の損益計算書その2」
https://www.subscription-research.com/service/Subscriptionblog01-05
・藤原大豊, 2020b.8.17「定期収益の予測確度別分類と期待ARR」
https://www.subscription-research.com/service/Subscriptionblog01-13

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